(2004/3/8プロパン・ブタンニュース)

SATOKO
(ピアニスト・本名=岡山聡子)
 
素顔のクラシック

 クラシック音楽は好きですか? と聞かれて“はい”と答える人は少ないだろう。どうも敷居が高いと身構えてしまうようだ。これはピアノを演奏する私にとっては大きな悩みだ。
 万人受けしようとは思わないけれど、クラシック=堅苦しい、と言うイメージだと何だか肩身が狭い。ところがパリに住んだら全く違った。
 何百年も変わらない石の街並、濃いエスプレッソと葉巻と香水の入り混じったような匂いに乾いた空気、ここではドビュッシーやバッハ、ショパンの曲だってまるで最近作られたかのようにすんなり馴染むから不思議。コンサートでも弾き手に聴衆、皆がリラックスしていてなんだか楽しそうだ。私達が歌舞伎を見てもごく自然の文化として感じるのと同じ位、自分達の国の音楽なのだろう。
 以前こんなことがあった。ノートルダム寺院の近くにある小さな教会で開かれたコンサートに行った時である。私がチケットを買って会場に入ったら、すぐ後ろにいた、どう見ても観客の一人と思われる女の人が、そのままピアノの前まで歩いて行き、イスに座るとジャラーンと音を出し、またどこかへ行ってしまった。きっとスタッフの人よ、なんて言っていたらその後、拍手と共に彼女が現れショパンの夜想曲を弾き始めたのだから驚いた。しかも素顔に普段着のようなワンピースという出で立ちである。でもその香りたつような音色といったら……、本物だと思った。こんな時、ああ、私は音楽が大好き! とつくづく思う。心が喜ぶのだ。
 ここはクラシック音楽の生まれた場所で、日本とは何もかもが違う世界だと思う。だからカルチャーショックの連続だ。今パリで勉強できるのをとても幸せだと思う。だけど、学んだものそのままを日本で弾いた時、果たして一般の人たちに喜んでもらえるかというのは疑問だ。私には今後日本全国をコンサートツアーで回り楽しい音楽を届けたいという夢がある。日本人の心にしっくりくる音楽というのをパリで思案中だ。