水銀は常温で液体という唯一の金属であるため、「液体の金属」と呼ばれる。エジプトの王墓から発見されたケースのように、紀元前1500年頃から合金として使われてきた。日本では奈良の大仏が金を水銀に溶かしたアマルガム(ギリシャ語で「やわらかいもの」の意味)を塗りつけ、金メッキを完成させたことで知られる。その後、水銀は気圧計や体温計、電池や蛍光灯などにも使われてきた。
 昔から生物がつくる化合物は有機化合物、鉱物性化合物は無機化合物として分類される。水銀の無機化合物に昇汞(しょうこう)、有機化合物にマーキュロ(ローマ神話の神名にちなむ。水銀の意味)があり、消毒剤として広く使われてきた。ただ、水銀もその化合物も人体に入ると「有害」との認識が高まり、現在では水銀化合物の消費量は世界中で減りつづけている。
 この点で水俣病は水銀中毒の典型。工場廃水に含まれていた無機水銀化合物が水俣湾の海底泥中で微生物によって有機水銀化合物のメチル水銀に変化し、これが魚介類を通じて人体に入り、知覚障害などの深刻な機能障害を与えた(化学同人発行、芝哲夫著『化学物語25講』を参照)。
 金属腐食問題に詳しいLPガス輸入・元売筋によると、沖縄で発生したLPガス中の水銀によるアルミ腐食問題は日本では過去に例がない、としている。ただ、天然ガスプラントでは過去、幾つかの事例が発生していて、調査された事故に、1973年12月、アルジェリアのスキクダLNGプラントの超低温熱交換器で水銀によるアルミ腐食が発見された例があるとする。
 この事例は1977年8月に開かれた第5回LNG国際会議で報告され、基本的には1.アルミは0度C以上の状態で水銀からの腐食を受けた2.水銀はLNG原料中に存在する場合がある3.ガス中の水銀量は測定者により変化した(井戸からの粗ガス50〜80μg/N立方メートル、パイプライン0.1〜89μg/N立方メートル、スキクダプラント入り口0.001〜0.65μg/N立方メートル)、の知見が得られた。天然ガス中の水銀が測定された地域としてはアルジェリアのほか、南米、スマトラ、中東などがある。
 アルミと無機水銀が接触すると水銀がアルミを溶かしアマルガムを生成するが、このアマルガムが進行して腐食割れを生じさせる。アルミ―水銀アマルガムと水分が接触すると、アルミは酸化アルミ(白色粉末、アルミナとも)となり、急速に腐食が進み、同時に水素も発生するという。
 沖縄で問題となったLPガス中の水銀について、今のところ詳しいデータはないものの、同筋によれば、米国で研究事例があり、1.天然ガス中には測定可能な水銀が含まれている2.液化装置において水銀はLNGやLPG、その他液体に混入する3.吸着剤によって天然ガスからかなりの水銀を除去できる―などが分かっており、LPガス中に水銀が混入する可能性を示している、という。
 沖縄のケースは輸入原油が原因とされ、水銀混入は原油精製過程と推定されている。同筋では「原油中にある程度の水銀が存在し、適正に除去されていなければ、LPガス中に水銀が混入する可能性がある。LPガス中にある量の無機水銀が存在した場合、アルミと水銀がアマルガムを生成したり、水分の存在で酸化されて、腐食割れが発生するようだ」と推察する。  PBN(プロパン・ブタンニュース)2001/12/24