(プロパン・ブタンニュース 2002/2/11)
GHPコンソーシアム技術顧問山岸一夫氏
GHP普及にもっと汗を
GHPを熱愛している山岸一夫さんにはGHPコンソーシアムが創設されたときから15年来親交を願っている。時に師匠であり、ときに僚友としてGHPの伝道僧よろしくその普及に励んできた仲である。LPガスの近未来を見る本連載企画に山岸さんに登場ねがい、いま鳴り物入りで登場してきたマイクロガスタービン(MGT)や固体高分子型燃料電池(PEFC)等の開発状況を聞いた。
マイクロガスタービン
マイクロガスタービンが話題になっているが、これはそもそもアメリカのベンチャー企業キャプストン社が小型ガスタービン発電機の企業化を始めたことによる。ガスタービンは航空機などの大型移動用動力機関としてその適正さが評価され、定置用としては特殊な用途に限られていた。然るに航空機用のガスタービン技術の飛躍的進歩により最近ではその技術がコンバインドサイクルの原動機として100万キロワットクラスの中央集中型の最新鋭、高効率の大型発電所に導入されるようになった。
この最新のガスタービンのダウンサイジングが進み、ついに100キロワット以下の容量のものまで実用可能になった。ちょうどコンピューターがスーパーコンピューターからデスクトップ、ノート型へとパーソナル化が進展した現象に譬えられている。
キャプストン社は小型タービン機器、空気軸受、高速発電機、パワーエレクトロニクス等の実証済の最新の技術を集約して、ついに出力30キロワットの小型、軽量で熱効率30%に達する発電ユニットの商品化に成功した。価額も安く、将来、量産化によるコストダウンにより500ドル/キロワットになるという。これに触発されて大手のアライドシグナルをはじめ欧米の有力な企業がぞくぞくと追随している。
キャプストン社などが目指すマーケットは、非常用、保安用、ピーク負荷対応の需要である。その背景にはアメリカ各都市の不安定な電力供給事情、慢性的な電力不足がある。マイクロガスタービン発電機は、その機動性、設置性、操作性からこのような市場にはまさにぴったりの発電機である。この発電機に日本で最も強い関心を寄せているのは電力各社である。東京電力は早々と「マイエナジー」なる会社を創設してマイクロガスタービンによる個別分散型電源の事業化を目論んでいる。
電力会社がこれほど熱心なのには理由がある。それはピーク対応電源を都市に分散設置できれば、ピーク対策で保存せざるをえないでいる、しかも保守に金がかかり、熱効率も低い老朽中小火力発電所を廃止することができて、電源構成がすっきりするからだ。ちょうど氷蓄熱を都市型揚水発電所と位置づけているのに似ている。これができるのも電力・ガスの小売自由化が進み、相手の供給網で自身のエネルギーを送れる「託送」ができるようになったからである。
空調市場は今、まさにマイクロガスタービン+EHP、氷+EHP、GHPの三つ巴の熾烈な戦いに入っているのである。
「日暮れて道遠し」 燃料電池の実用化
世界の自動車メーカーは次世代自動車の原動機としてバッテリー駆動の電気自動車を多年追い求めてきた。しかし、バッテリーの小型、軽量化、低コスト化は進まず、先の展望ができなかった。また、燃料電池は過去五十年にわたっていろいろな方式がトライされてきたが、実用化が早いとされていたリン酸型のものもいまだ実用化の域に達していない。そこへカナダのベンチャー、バラード社が新たな特徴を持った燃料電池を発表した。自動車メーカーは藁をも掴む思いでとびついた。ダイムラー・クライスラーが最初に名乗りをあげた。日本のメーカーも追随した。これにマスコミが便乗して、三年後に実用化とか、究極の電源とか、盛んに囃し立て、そのブームに乗ってちょうちんを振る学者先生もいる。だが、事実はかなり難しいと言わねばならない。
真実の声に耳を傾けよう
マスコミや一部宣伝家が囃し立てているなかで、新聞記事を注意深く読むと、開発の第一線にいる人の発言に事の本質を聞くことができる。それらの発言のいくつかを拾ってみよう。
1.2003年に実用化できると言っている人は、この電池の本当の難しさが分かっていない。2.実用化は定置式が先で、自動車用はその後20年先である。3.石油の値段が倍になってハイブリッド自動車が普及する、燃料電池自動車の普及は見当もつかない。4.資源制約、環境規制から化石燃料の使用が制限され、自然エネルギーをベースとする水素時代がやってくる。燃料電池はそのとき初めて実用性がある。
これらの現場の声は、景気のいい掛け声が渦巻く中ではなかなか出てこないが、こうした少数の勇気ある発言にこそ真実がある。このように見てくると、ガス業界においては当分の間はGHPを超えるものは出てきそうもない。燃料電池と騒いでいる人は何もしない、その言い訳とみなされても仕方あるまい。
GHPで季節や気温の変化に左右される空調需要をまかなってしまえば、それはあたかもラフが生い茂ったタフなゴルフコースのラフをGHPで刈ってしまうようなものだ。そうすればアマチュアも容易にゴルフを楽しめる。
コージェネレーションとGHPの補完関係はこのようにたとえることができると、山岸さんはGHPの普及にもっと汗をかこうと強調した。
プロパン・ブタンニュース2002/2/11 ナリケンがゆく ウェーブ・風 話題と肖像画