三ツ輪産業の尾日向曉社長の社長室に通されると先代の尾日向竹重さんの胸像が眼に入った。お懐かしく威厳のあるお顔である。胸像に近寄り親しく仰げば胸像の除幕式が行われた昭和５４年の創立４０周年式典の模様が思い出された。そんな思い入れで胸像に相対していたら曉社長が言った。先代は平成２年８月１６日に８８歳で亡くなった。五黄の寅年だから存命なら今年は満百歳である。自分は４まわり下の寅年で５２歳。私は２代目だが孫だと言う。そしてお祖父さんの時代は業界もよい時代だった。お祖父さんが定めた経営の基本「社会貢献」「環境への配慮」「販売店会との相互信頼・共存共栄」を貫くべく日々努めている。「一方通行では生き残れない」「自分だけ大きくなればよい」という考え方は断じて排している。今後もこれを曲げようとは思わない。
働き者の「みつばち」
偉大なる先代の跡を継いだ曉社長は、社長就任から１０年を経た平成１２年に創立６０周年式典を行い、２１世紀への準備は整ったとして「地域密着のリーディングカンパニー」たらんと三ツ輪産業のガスブランド「みつばちガス」とイメージキャラクター「ミミチャン」を制定、発表した。一生懸命、真面目に一軒一軒に安全、確実にガスをお届けするみつばち、大きな耳で情報をキャッチし、元気かつ敏速に活動するうさぎが２１世紀の三ツ輪産業の行動指標だというのである。
これは単なるイメージキャラクターやスローガンの制定ではない。首都圏１都６県の地域密着戦略の真髄を適切に表現したものである。一例をあげれば首都圏に展開した合同三ツ輪会の恒例の事業となっている「みつばちガスふれあい点検キャンペーン」がある。今年も同キャンペーンの申し込み期限は６月１４日、点検キャンペーン期間７月１日〜９月３０十日である。そして点検を実施した件数がエントリー件数に達した販売店を秋に開催される合同三ツ輪会研修会で表彰する。この点検サービスは無償で行われ、お客のこんろを清掃する。モノを売りに行くのではない。お客のニーズが何かを知るのが目的だと社長は熱っぽく説いた。
耳の大きな「ミミチャン」
社内報「ＢＥＳ２１ ＮＥＷＳ」は広報委員会が発行する月刊紙で毎号社長からのメッセージが掲載されている。これに対して「ミツワのＷツ！」は、社員が作る月刊紙である。情報最前線というコラムは各営業所やグループ会社の第一線のホットな話題がたくさん載っていて面白い。また「ミツワ Ｗｉｎｇ Ｎｅｗｓ」は対外向けＰＲ紙である。大きな耳のミミチャンを標榜するだけに情報のキャッチばかりではなく、情報の開示によって情報の共有化をも心掛けている。社長は朝、出勤してまずメールを開くことから一日が始まると言う。
曉社長が今年の年頭の辞で述べた五つの営業方針は、三ツ輪産業の地域密着戦略を端的に表現したものである。
地域密着のリーディングカンパニー
1.コスト競争力のアップ。その代表的事例として今年２月、神奈川全域で物流効率化を目指してミツウロコ、シナネン、三ツ輪産業の「神奈川エナジック」設立があげられる。これは消費者２０万戸、年間１０万トン、関係販売店５４０店にかかわる合理化である。２.ＬＰガスのイメージアップ、３.情報収集力の強化、４.環境への配慮と社会貢献、これについて若干の説明を加えておこう。昨年１月開催のグループの賀詞交歓会で社長は自社の営業車５０台以上のＬＰＧ車化を宣言した。９月には社長発表通りに達成、既存分と合わせて８０台となった。これらの車は「クリーンエネルギー・プロパンガス」「ＬＰＧ低公害車」とペイントして街を行き交い、動く広告塔を演じている。５.基本理念の「相互信頼・共存共栄」である。
かくて三ツ輪産業は首都圏の１都６県に直売戸数は５万２千戸を擁し、取引販売店は２５００店（グループ会社は除く）、ＬＰＧ販売量１５万５千トン（グループ会社は除く）である。そして平成１３年度の売上高は、ＬＰＧ７０億円、石油類７０億円、住設機器類３５億円だった。これらの事実と数字は曉社長が言うところの「地域密着のリーディングカンパニー」として大地に根をはって着実に地歩を築いていることを示すものである。
「竜王」のオーナー・尾日向曉社長
クルージングは曉社長の唯一の道楽と言えよう。大学時代はＫＣＣ（慶応クルージングクラブ）のメンバーだった。そのころ週末には仲間たちと油壷のシーボニアに行った。そして「竜王」（国内のレースを総なめにした艇）を憧れの眼で眺めたものだ。曉社長はいま修復なった竜王のオーナーとなってシーボニアに戻したのである。
曉社長は言う。ヨットは風を見、潮をよまねばならないと。曉社長は業界の風も潮もよみ尽くすに違いない。
プロパン・ブタンニュース２００２／１０／７ ナリケンがゆく ウェーブ・風 話題と肖像画
