エア・ウォーターの豊田昌洋副会長にお会いして先ず、青木弘会長が心臓の大手術をなさって一年余が経過したが、予後はいかがとお見舞い申し上げた。たいへんお元気だと仰って次のように続けられた。会長は一昨年三月十一日に、生還率一五％と言われた大手術を受けた。その手術の直前に例の雪印食品の輸入牛肉偽装問題が起きた。見舞いに行ったわれわれに痩せこけた青い顔をした会長から雪印問題をわが社として前向きに検討せよと指示が出た。ベッドの上には輸入牛肉問題を報じた新聞が散乱していた。一五％の生還率を乗り越えて四月なかば早々に出社した会長は、エア・ウォーターの超低温技術による冷凍食材会社の「さぶーる」を活用して雪印事件による地域のダメージを救った。「さぶーる」は、従来の海鮮食品やアスパラなどの冷凍食品にハム、ソーセージのチルド食品を加え、卸から一般消費者へ販路を広げた。青木会長は大同ほくさんの合併を成し遂げたこともあり、北海道への貢献を考えたに違いない。事実、北洋銀行も北海道空港も、そして雪印の工場があった早来町も「さぶーる」（現社名は「春雪さぶーる」、本社は札幌市）に資本参加して地域振興を図ったのである。
１０年で三つの大合併
雪印問題とエア・ウォーターのかかわりを話してくれた豊田副会長は、これが青木会長の経営哲学を象徴する好事例として話してくれたのだろう。
豊田副会長は語を次いでこう説明する。
わが社は平成五年に北海道を事業基盤とする「ほくさん」と大阪で事業展開する「大同酸素」の合併、同十二年には鉄鋼メーカーのオンサイト事業を主力とする「共同酸素」と合併してエア・ウォーターとして新たなスタートを切った。平成五年の大同ほくさん合併時には総売上高千五百五十億円、経常利益三十六億円だったが、平成十六年三月期決算では総売上高二千六百五十億円、経常利益百四十一億円の見通しだ。三社合併の効果である。企業間格差、地域格差が顕著な中でこのような業績を収めえたことは“オヤッサン”の非凡なる経営手腕によるものだと言う。筆者が怪訝な顔をすると、豊田さんは、内輪では青木会長をそう呼んでいるとのこと。そして“オヤッサン”がいなければ、できないことだったと言う。
ＥＳＣＯでマイクロコージェネを普及
エア・ウォーターは、平成十四年からガスエンジンコージェネレーションの普及体制をとった。熱需要の多い工場や病院、福祉施設、飲食店、ホテル等をターゲットに市場開拓に取り組んだ。
現在、設置件数三十二件、今年度新たに付加されるものが、これまでの倍近く予定されているから年度内に都合百物件くらいに達するとしている。これまでに設置した平均出力は、五`h、いわゆるマイクロコージェネ（ＭＣ）である。
エア・ウォーターのコージェネ事業の取り組みで特記すべきは、ＥＳＣＯ（ＥｎｅｒｇｙＳｅｒｖｉｃｅＣｏｍｐａｎｙ）である。これは省エネに関する包括的サービスを提案する企業をいう。ビルや工場の建物・設備にエネルギーの使用実態調査や省エネ診断をする。また、省エネ計画の立案、設備の設計・施工。省エネ効果の計測、設備の保守管理までを一貫して行う企業である。エア・ウォーターの場合、省エネ診断、導入提案、設備費用の負担、メリット保証、二十四時間監視、設備管理、メンテナンスの実施、バックアップ保証、燃料管理などである。
豊田さんはこのように説明して、ＬＰガスは環境に打ってつけのエネルギーなのにこれまでの使い方が悪すぎた。種々のビジネスが可能なのに単純に扱い過ぎた。ＥＳＣＯ事業をやっているとユーザーから種々な相談が寄せられる。回転寿司の二百店舗チェーンの飯炊きを一手に行うライスセンター、それから一日六百食を捌くというそば屋からもくる。こういう情報と知識の蓄積が差別化につながる。卸事業からの脱皮と言うことにもつながるのだと強調した。
「ＡＷ・ウォーター」
インタビューが終わりに近づいたとき美しいグラスでお水が運ばれてきた。メモをとりながら質問をして、その応答に耳を傾ける作業に疲れを覚えたところだったので適度に冷えた水がたいへん美味しかった。
「ＡＷ エーダブリュー・ウォーター」である。〇・〇〇〇一ミクロンという目の細かい膜によってろ過された純度の高い水だった。おまけにミネラル成分をバランスよく配合し、まろやかに仕上げたと言う。だから、これはどこどこの名水を汲み上げてきたというのとは違う。最先端テクノロジーから生まれた安全でおいしいミネラルウォーターと銘打っている。「ＡＷ・ウォーター」はエネルギー事業部門が所管する。
この水に幸いあれと思う。万葉集から水にちなんだ短歌を一首。
石いわ激ばしる垂水たるみの上のさ蕨わらびの萌え出づる春になりにけるかも
志貴皇子
プロパン・ブタンニュース２００４／２／９ ナリケンがゆく ウェーブ・風 話題と肖像画
