ウェーブ・風  話題と肖像画 ナリケンが行く

(2004/4/19プロパン・ブタンニュース)

垣見油化社長
垣見裕司氏
「あずかロッカー」に新業態を発見

  垣見油化の垣見裕司専務に「あずかロッカー」の話を聞きに行った。「あずかロッカー」とはガソリンスタンド(SS)で配送物品の受取代行サービスを行う業務(システム)の総称である。不在がちで宅送品が受け取れないケースが多い。宅配業界の市場規模は年間三十億個、不在で持戻率三〇%、その一%のニーズでも需要は三千万個である。あずかり料一個二百円として六十億円である。全国に五万カ所あるSSは郵便局やコンビニより多い。しかもSSの敷地面積はコンビニ店舗の数倍あって預かり物品を受け取りに来た人の駐車スペースや倉庫の確保も容易である。ここに着眼した垣見裕司さんは、SSを優れた集客スポットととらえ、そこに客をひきつけるものとして配送物品の受取代行サービスを考えた。正にSSの油外新業態≠ナある。
 垣見さんは平成十三年に資源エネルギー庁石油流通課が主催した石油流通研究会に委員として参加してこの問題を提起した。平成十四、十五年度の二次に亘って国の補助金が付与されて「あずかロッカー実験事業」を行った。垣見さんはこの実験グループの代表で、十四年度実用化実験報告には「SSの立地特性を活かした配送物品受取代行サービス実証試験」(十五年二月発表)、十五年度(第二次)の実験報告には「SSこそが、物流のラストワンマイルを握れ」(十六年二月発表)というタイトルがつけられ、システムの構築を図っている。
物流のラストワンマイルを
 通信の業界にラストワンマイルという表現がある。ケーブルテレビでも光ファイバーでも延々と長距離を引っ張ってくるコストは安い。末端のラストワンマイルが高くつく。ここを制するものが情報化社会を制すると言う。物流も同様である。十四年度実験で当該SS近辺での持戻率は約三〇%、時間指定サービスでも余り改善されなかったと宅配業者は言っている。この観点から宅配業界とSS業界は提携の要がある。また、十五年度の実験ではSS周辺の小規模法人では昼間は社員が外出して事務所が無人で宅配品を受け取れないケースが多く、これを近隣のSSで預かっておけば帰社時に取りに寄ればよい。宅配業者は夜遅くに再配送しなくてすむ。この場合宅配業者から一個五十円から百円程度、お客からは月ぎめ五千円から一万円程度の料金を得ることができる。それは都心型SSの新しい収入事業となる。また、一般住宅地で在宅率が向上するのは二十時以降である。この時間のSSは忙しさのピークが過ぎているので人件費を増やすことなく配送できる。宅配業者にとっては持戻りコスト、再配送コストが省ける。SSは宅配業者と異業種提携が可能になる。
SSの創業者利益の時代は終わった
 SSはモータリゼーションの波をつかんで創業者利益を得てきたが、六十年を経て成熟した現在、利幅が減るのは当たり前、ガソリン需要は減退している。車齢が約十年に延び、古い車は燃費が半分しかない。それらが十分の一ずつ買い替えられていけば、需要は毎年五%自然減になる。さらにハイブリット車はSSが触りたくとも触れないだろう。部品はメンテフリーとなり、洗車以外カーケアーは無くなる。カーディーラーがオイルのボトルキープも始めている。そういう状況の中で「SSしかできない経営者から、SSもできる経営者に」ならねばならない。今やることはガソリンの利益に依存しない経営体質を作ることだ。「あずかロッカー」は、「いずれ再びガソリンで儲かる時代が来る」「あと何年我慢すれば、SSが何軒まで減って儲かる時が来る」といった考え方とは対極にあるものだ。
垣見家のDNA・環境への対応
 忠臣蔵の大石内蔵助江戸下りの段に、大石は垣見五郎兵衛と偽って道中をしたが、箱根の関所で本物の垣見五郎兵衛と出会ってしまう場面がある。鷹の羽の定紋を見て、本物は情けある計らいをして退散する。両者の腹芸は芝居でも見所である。
 この垣見五郎兵衛は垣見家の先祖である。元々垣見家は近江・浅井家の筆頭家老だったが、後に江戸に出て商売を始めた。明治四年、植物油脂製造販売店を営む。大正九年に小倉石油の特約店になり、八十年を超える石油の実績である。昭和三十年にLPG販売開始、三十九年に運輸業務の多摩荷役、四十二年に合成樹脂部、五十六年に不動産部へ進出と環境の変化と共に多角化し、今や石油・ガス・合成樹脂を三本柱に不動産を含め、従業員七十人で年商九十億円を実現して変化への対応には年季が入っている。
 対談の終わりに「あずかロッカー」は、LPガス事業者にも向いているのではないかと問うた。SSの客は今月の客が来月も来てくれるか分からない。LPガス事業者は永久に自分の客だと思っている。言い換えれば創業者利益を追求し続けているようだ。経営者の頭が切り替わらない限り「あずかロッカー」に興味は示しても実行は難しいと言う。

 プロパン・ブタンニュース2004/4/19 ナリケンがゆく ウェーブ・風  話題と肖像画


話題と肖像画・ナリケンがゆくを読む