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(2004/8/9プロパン・ブタンニュース)

泉金物産社長
八重樫義一郎氏
八重樫家 保守の中の革新

  泉金物産の社長・八重樫義一郎さんは、岩手県岩泉町の旧家・八重樫家の九代目の当主である。お父上・金十郎氏は日連会長もなさった。今は全国木炭協会の会長を勤めており、全国商工連副会長、岩手県観光連盟会長など多くの公職に就いていた。そして泉金物産の相談役として健在である。お父上は昭和二十三年に大学を卒業して岩泉にもどって家業を手伝った。そして四年後の二十八歳のとき先代が急逝されて「下閉伊酒造」「岩泉自動車運輸」「岩手県北自動車」等の社長に、また「小本川漁業組合長」に就任した。お父様の二十八歳に比べれば義一郎社長の平成十一年、四十三歳でのバトンタッチは、十分な助走時間があって幸せだったと思う。義一郎社長は、泉金物産の社長の他にグループ会社の「泉金酒造」「岩泉自動車運輸」「泉金不動産」「泉金商事」の社長でもある。泉金物産は昨年、創立五十周年を祝ったが、五十年経つといろいろな変化に遭遇する。その変化に対応して会社は業として残って行かねばならない。昔から当地は凶作、冷害の常習地だった。日々の生活を助け合い、将来に向かって産業を興し人々の生活を豊かにして行く、これはわが先祖がずうっとやって来たことである。原点に立ち返り、お客さまとの関係を見直し、信頼していただけるようにする。これが変化への対応だと言う。これを聞きながら八重樫家に代々伝わる経営の気質というか「DNA」だなと思った。こうして時代にマッチさせることを経営の基本に近代的事業グループに発展させてきた八重樫家である。
八重樫家の多彩な事業
 酒造業は、安政元年に「八重桜」という銘柄で酒造業を始めている。「八重桜」は八重樫からとった名である。曽祖父の時代、新しい明治政府のもとで家業の林業や酒造業の他に畜産とか養蚕を始めた。今は泉金酒造から「龍泉八重桜」の銘で売られている。現在はインターネットのツールがあるからこれによってシステム化して直に客に届けるようにしたい。そうしなければ生き残れないと言う。また、岩泉には砂鉄を産した。これによって西洋式溶鉱炉以前に踏鞴(たたら)製鉄が行われた。これらの産品の輸送は、馬では弱く、牛にたよった。このために岩泉に牧場が出来、牧畜が盛んになった。東京の巣鴨に牧場を経営する親戚もいた。曽祖父は明治の初期に外国の純粋なホルンスタインの種牛をかなりの数で買い込み繁殖させた。牛乳販売も始めた。盛岡市と宮古市を結ぶ以北をテリトリーとする地域の足となるバス路線をもつ県北バス会社は祖父、父が社長だった。盛岡・宮古間の106号国道の完成を機に県北バスは「一〇六急行」で盛岡・宮古間を列車より早く二時間走行を実現させた。昭和三十年代に入るや県北バスのエリアに八幡平と三陸の二つの国立公園が指定された。そこで「浄土ヶ浜パークホテル」「八幡平観光ホテル」、さらに宮古カントリークラブと松島国際カントリクラブをオープンして観光事業を展開した。
家業の森林業からLPガス
 岩手県の木炭生産量は年間九千dで、日本の生産の四分の一、東京の家庭燃料の相当部分を岩手県が供給していた。林業の家業を継いで岩泉で木炭生産をして、東京に直接出荷していなかった。久慈、二戸、宮古の出荷業者を通じて東京の卸問屋へ出荷していた。これを不合理として昭和二十八年に地元の薪炭業者を集めて岩泉薪炭株式会社を作って直接東京に出荷した。そして父・金十郎はLPガスに傾斜していった。昭和三十二年ごろ宮古で岩手県産木炭の品評会があったとき翌日、東京の業者が岩泉の龍泉洞を見学して、わが店に立ち寄った。そこにあったプロパンのボンベを見て、これは何だと大騒ぎになり、「かくかくしかじか」とプロパンの講釈におよび東京の業者をビックリさせたと言う。
 岩泉町は山深いところだが、早くから江戸・東京との交流があり、街道筋の宿場町として栄え、養蚕が盛んで、牧場もあって牛乳店があり、時代の変遷と共に時々の産業の流れに添って発展した町である。八重樫家は、この町で屋号を上宿(わじゅく)と呼ばれたる素封家である。
酸素いちばんの町
 岩泉町のキャチフレーズは、「酸素いちばんの町」である。竹下総理の「ふるさと創生一億円事業」で岩泉の青年たちが精査して、町内の森林が光合成でCO2を吸収し発生させる酸素量は四百万人分に相当し、市町村では日本一と宣言した。因みに岩泉町の人口は、一万三千人、その面積は、九百九十三平方`bで、森林面積は九三%である。CO2増加による地球温暖化など環境問題をはじめとして社会が一つの転機に直面している今、地球にやさしいLPGを提唱する泉金物産、そして地元が時代に遅れないように持って行きたい、と義一郎社長は対談を結んだ。


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