コスモ石油ガス社長の加藤徳(のり)生(お)氏は今年6月に同社社長に就任したばかりである。加藤社長は平成13年に親会社のコスモ石油取締役東京支店長からコスモ石油ガス常務に転出した。石油在籍時には主に営業企画・管理畑を歩み、人事部長や広報部長も歴任した。それだけに多彩な人脈に恵まれ、大きな財産になっている。
インタビューで訪問したのは8月末。NYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)のWTI原油(ウェスト・テキサス・インターミディエート=米国の代表的油種)は70ドル/バレルを突破した。原油の一本調子の高騰は予測の範囲にあるものの、遂に70jの壁もあっさり塗り替えた。エネルギー高価格時代は長期的に続く。国際LPガス価格(サウジアラビアCP)にも色濃く影を落とすだけに、LPガス業界も受難の時代は続く。
昨年10月策定のわが国のエネルギー基本計画で、LPガスはクリーンで独立したガス体エネルギーとして明確に位置付けられた。この特性をフルに発揮した場合、2030年には最大で2,500万トン市場実現の期待も担う。
しかし、LPガス業界はこれとは正反対ともいえる状況を抱え、“2010年問題”が横たわり、大きく分けて3つの課題に収斂されると加藤社長は言う。
1つは少子・高齢化社会の人口減少等で、今後LPガス総需要のパイ自体が減少する懸念。
2つ目は京都議定書の正式発効による国際公約を受けて、CO2削減・省エネ主軸の環境新時代と経済の両立を目指す国のエネルギー政策もあり、消費原単位自体が減少傾向を辿る販売事業の質的変化。
3つ目は電力や都市ガスの料金値下げに代表されるように、各エネルギー間の競合激化で料金競争が販売事業の収益構造に波及するなど、経営展開のあり方自体が問われる時代が確実にやってくる。
業界も否応なしにこうした変化や競争に巻き込まれる。うかうかしていると業界基盤の足元をすくわれかねない。これら3つの課題をLPガス業界全体でどう乗り越えていくかは、焦眉の急だ。
LPガス産業の発展や需要促進の要は、安全性・利便性・快適性・環境適合性にあり、ノーブルユースとも言える賢い使い方、上手な使い方をことあるごとにアピールすることに尽きる。つまり、用途に適した使い道・使い方の問題であり、LPガス・都市ガス・電気を含めて、どの用途に何を使ったらよいかのエネルギー・ベストミックス時代の要請に応えることだと言う。
オートガスに注力
家庭業務用は今後もLPガスの主力用途であることに変わりはないが、都市ガス用や一般工業用は天然ガス化で先細りする。石油化学原料用は原油価格レベルとの関連で上下振幅する。残るは輸送用の自動車用で、輸入バランスや需要構造上からも期待の分野である。オートガス市場の活性化では、輸入・国内生産を含めた品質工場の位置付けや役割を持つ輸入・元売の安定供給体制、自動車メーカーには広範なユーザーニーズに対応できるLPG車の開発・生産拡充要請、LPガス流通業界あげての市場魅力度の向上と普及促進体制強化の「三位一体策」に加えて、LPG車転換国庫補助金制度の「政策援助策」の有機的連合策が必要と指摘した。
経営はヒト・モノ・カネに情報力。経営や業績のバランスシートには、働く人は出てこないが、会社貸借対照表の資産上では人が表す価値は大きい。人と人とのお付き合いを積み重ねた人脈・信頼関係こそ、人口減少時代の新しいビジネスモデル展開の核になる。知識も必要だが、現在のように大きな構造変化が起きているときには、それ以上に工夫する知恵の集積こそにウエートを置く時と強調する。
新中期3カ年経営計画
コスモ石油ガスは親会社・コスモ石油との連携下で、今年度をスタートとする新中期経営計画(05〜07年度)の展開に入った。
計画の柱は経営環境の変化を踏まえた輸入品の収益改善による自立体制の確立、ユーザー第一主義の地場・リテール部門の強化、LPガスの将来発展につながる新利用技術へのシフトの3点を掲げる。
また、04年度から新展開しているグループ販売促進戦略「強じんなコスモ石油ガスグループの構築に向けて」(3つの創造=顧客創造、需要創造、事業創造=と6つの実践)を引き続き積極推進している。
加藤社長の就任はこの計画発動と時を同じくする。LPガス事業発展のカギは輸入・元売、卸売、小売りの3層構造のスクラム強化・総合力にある。分散型エネルギー・分散型電源の役割を担う筋肉質のLPガスビジネスの一層の前進を目指す。
加藤社長は俳句を詠み、手紙の末尾には自作の句を添え書きするという。近作を所望したら、「鳴き止みて 蝉あとずさり 夕木陰」を示された。
昭和22年、東京・下町生まれの58歳。生粋の江戸っ子。
プロパン・ブタンニュース2005/9/12 ナリケンがゆく ウェーブ・風 話題と肖像画 U
プロパン・ブタンニュース/石油化学新聞社(C)