電気との比較実演 ガスならではの料理の味
武州ガス 会長
原 宏氏
ウエーブ・風 話題と肖像画/ナリケンがゆく <164>

 武州ガスの原宏会長は、都市ガスの天然ガス熱変を昭和60年に踏み切り、平成2年に完了させた。それは全国の中小都市ガス会社では初めての快挙だった。また、昭和46年に設立した関連会社の坂戸ガス(都市ガス)も平成12年1月に天然ガス熱変を完了した。熱変費用は1件当たり10万円、転換には年間売り上げに匹敵する金がかかると言われた。小さなガス会社がやれることではないと専らの評判だった。原さんは、ブタン原料の製造ガスと天然ガス転換費用を比較計算して熱変を決断したのではあるが、半年は眠れない日が続いたと言う。堅実をモットーとした父上・原次郎氏(当時、武州ガス会長)の強硬な反対があった。しかし最後は父も体を壊すなよと言って納得してくれたと言う。武州ガスの供給区域は、川越市を中心に埼玉県西部に位置し、所沢市、狭山市、ふじみ野市、鶴ヶ島市、川島町、吉見町などである。供給区域内には鉄道、幹線道路が四通八達して開発が進み、首都圏のベッドタウンとして人口の増加が著しい。需要家17万戸(平成17年3月)。区域内に工業用、業務用ユーザーも多い。
関連会社・坂戸ガス
 原さんは関連会社・坂戸ガスの社長でもある。昭和46年、坂戸町長、同町議会の要望で設立された。供給区域は坂戸市、鶴ヶ島市、川越市、鳩山町で、需要家件数は2万7,261件(平成17年3月)、区域内に女子栄養大学、大手スーパーなどがあり、平成19年度には坂戸市の隣の鳩山ニュータウン団地3,200戸をプロパンガスから天然ガスに転換する。工業用では印刷、化学、食品等多様な業種の工場がある。原さんの出自は入間郡三芳野村、今の坂戸市紺屋である。そして平成17年に坂戸市名誉市民に選ばれた。坂戸市は6人の名誉市民がいるが、うち2人は原次郎氏と原宏会長父子である。それだけに坂戸ガスの発展は、原会長にとって感無量なるものがあるに違いない。
LPガスの武州産業
 昭和34年、武州ガスの子会社・武州産業が設立された。初代社長は父上の原次郎氏だったが、今は原宏会長、高橋洋三社長である。設立当初は都市ガス生産の副産物であるコークス、タールの販売だったが、現在は、LPガスを中心に供給先も一般消費者をはじめ、ホテル・レストラン・ショッピングセンター・病院・学校等の業務用の他に高温焼成や熱処理、ガスボイラー等の工業用の供給も多い。埼玉県嵐山町に800㌧/月の充填能力を持つ充填基地を持ち、これら大口ユーザーにバルクローリーによる安定かつ迅速な配送システムを確立している。
武州ガスのルーツ
 原会長の家があった埼玉県三芳野村は、入間川、越辺川、小畔川、大谷川の4つの川の合流点の一番低い所にあった。堤防が不備で1年に十数回も洪水になった。味噌も糞も一緒と言うが、洪水になると正にその通りの有様だった。祖父は村長、父も農業に携わり青年団長などしていた。父は疲弊した村を救うために研究会などをつくり奮闘したが、中々成果が上らなかった。原会長の生家の近くの出身者に製紙王と言われた大川平三郎氏がいた。氏は渋沢栄一翁の甥にあたり、100以上の会社を興した人である。青年団長の父と青年団の幹部は大川さんに支援を願った。大川さんは、村民の熱意を認めて資金を出すなど尽力した。今でも大川堤という堤防があり、碑も建っている。その後、父は大川さんと昵懇になり指導してもらうようになった。大川さんに、いまの農協に当たる産業組合の組合長になってもらい、父は専務理事で村の農業発展に尽くした。父と大川さんは、地域の公共のためになる会社をつくろうということになった。父は、洪水は山林が荒れて雨が一時に川に流れ込むから起こる。水を治めるには山を治める必要がある。それには薪や炭を使う状況を変えよう。木を切らなくていいガス会社がいい、ということになった。それが武州ガスの始まりである。大正15年のことである。
 渋沢翁は経済道徳合一主義を唱えて多くの企業経営を成功させた。大川さんは渋沢さんから、父は大川さんから、そして私は父から経済道徳合一主義を叩き込まれた。武州ガスにはそういう伝統がある。
埼玉県ガス協会主催の料理コンテスト
 昨年11月に実施した埼玉県ガス協会主催の料理コンテストは、地区大会、決勝戦とも大変な盛り上がりようだった。電磁調理器とガラストップこんろの比較実演は、自然の炎による料理の美味しさが文句なしに人々に浸透した。武州ガス本社の玄関を入るとロビーで女性社員によるこの実演が行われていた。そこで配られていた埼玉県ガス協会の「簡単クッキングPart2」には「ガスでひろがるおいしいレシピ」が載っている。ローストビーフとキャベツサラダ、手羽先の香り焼き、トースト&シナモントースト、油を使わない土佐豆腐等々。電磁調理器では到底太刀打ちできない料理の数々である。
 女性社員が実演する様を見て、埼玉県ガス協会長の原会長は企業倫理だけではなくガス会社として電化攻勢に打ち勝つ企業経営の術すべをも教えて下さっていると思った。 

プロパン・ブタンニュース/石油化学新聞社(C)