VPI(気体噴射)を熱っぽく説く
ニッキソルテック社長 
古元道丈氏


ウエーブ・風 話題と肖像画/ナリケンがゆく <179>

 先進型と言われる最新のLPG車がある。自動車は、エンジン内部のシリンダーにオートガスやガソリンなど燃料を入れ、爆発させて走る。先進型とは、この燃料供給をインジェクターと呼ばれる装置で行う自動車である。ガソリン車は100%この装置を使っている。ガソリン車と同様の性能を得るには、LPG車も先進型になる必要がある。ニッキソルテックは、国内部品メーカー大手グループとして唯一この装置を作るメーカーである。神奈川県海老名にある親会社ニッキの工場敷地にニッキソルテックの古元道丈社長を訪問して同社の気体噴射型LPG車開発の経緯とその販売の現状を聞いた。
液噴と気噴
 ニッキソルテックが開発・販売しているNVPI(Nikki’sVaporizedPetroleumInjection)は、直訳するとニッキの気体噴射装置である。オートガスが気体状態でシリンダー内部に供給されるため、こう名付けられた。ニッキソルテックは、NVPIメーカーとして親会社のニッキが平成16年5月に立ち上げた会社である。ニッキソルテックの古元社長はソルテックの社長になる前は親会社ニッキの取締役(設計担当)だった。
 ニッキのLPG車研究は古く、昭和40年代から始まっている。研究段階では現在発売している気体噴射方式だけでなく、液体噴射方式もあったが、ニッキはVPI(気噴)、トヨタはLPI(液噴)で特徴づけられている。この両方式には夫々にメリットとデメリットがある。
 気噴のメリットは、液体の状態を継続するための圧力装置、つまりポンプが不要。低圧力で安全性が高く、噴射がよい。デメリットは、液体に比べて体積当たりのエネルギー量が少ない。オートガス主成分のブタンが零度Cで液化するため冬季に弱い。この逆が液噴のメリットとデメリットになる。
気噴がニッキの特徴
 ニッキは気噴を選んだ。オートガスのブタンとプロパンの混合比は、寒冷地ではプロパン・リッチである。ブタンは低温で液化してしまうからである。全国で走るタクシーに対応するためにLPガススタンドはLPGの混合比で対策を講じている。ニッキのVPI車は、走行性能も自社測定でガソリン車並みと確認できた。二酸化炭素排出量も国の構造改善調査事業で改造前のガソリン車と比較して12%削減できることが確認された。
ニッキのVPI車の販売状況
 ニッキのVPI車は、車種別に開発、販売されている。現在は、日産車でADバン、ティアナ、ラティオ、アトラス10用、マツダ車でアクセラが教習車用に、上海フォルクスワーゲン車でサンタナ、パサート用が発売されている。今年度は、日産車でシルフィー教習車、フーガ、アトラス20、キャラバン、バネット、シビリアン用など合計11車種用のVPIを開発する計画である。
 ニッキグループはソルテック創業から昨年度までを開発重視の第1段階と位置づけていた。営業車、バス、トラック、教習車、乗用車など車種幅が広がってきたこれからは、第2段階として営業活動に力を入れる。VPIの営業は、ニッキグループの日気サービス会社が担当している。同社は3年前に明治産業(LPG車改造事業者)の商権を買い取った。今年2月にニッキ本社から営業担当重役が入り販売を本格化している。
 また、マツダは改造車部品のよいものを作っていたが、5、6年前に製造をやめたのでソルテックはマツダにOEM(相手先ブランド)供給をしている。
 NVPIの昨年度の販売は、日気サービスとマツダ分を合計して533台だった。このうち70%以上が教習車である。営業車ADバン用、乗用車のラティオ用といった順で続く。ソルテックは創業して半期しかなかった一昨年度に35台分販売した。昨年度が前記のように533台、現在累計660台分販売した。そして今年度の目標は、月に100台程度の改造車を手がけたいと古元社長は言う。
フーガVPIは社長車に
 ニッキグループはLPG車の普及促進に取り組んでいる。今年度末には社有車14台を先進型LPG車にする。NVPIの今年度開発計画にあるフーガは、ニッキ社長車になる予定である。また、今年秋には、ソルテック研究所の隣に自社LPガススタンドを建設する。社員や関係会社にもLPG車化を呼びかけている。
 古元社長は、ニッキ時代、天然ガス自動車開発に携った。その経験から、高い圧力を駆使しないと自動車燃料として利用できない天然ガスより、液化しやすく自動車燃料として優れたLPG車を普及すべきだと力説した。
 一つのエネルギーを無理やり多方面に活用するより、それぞれに最適の利用方法を追求すべきだと、LPG車開発第一線技術者社長は信念を語った。 

プロパン・ブタンニュース/石油化学新聞社(C)