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(2002/11/25 プロパン・ブタンニュース)


マルエイ社長
澤田栄一氏
アメーバ経営で新世紀を拓く

  株式会社マルエイの5代目社長・澤田栄一氏を岐阜市の同本社ビルに訪ねた。
 栄一社長は44歳の男盛り、会長に父の榮治氏、副会長に叔父の榮作氏が健在である。
 栄一さんは父や叔父そして先人たちが築いた経営資源を効率利用して付加価値を高めるのが私の使命だと言う。会長も副会長も任せたからにはお前がやれ、と口を出さないのは有難いとも言う。
 いまわれわれを取り巻く社会情勢、経済環境は先が読みにくい。わが社の事業の主力であるエネルギーも電気、都市ガス、LPGがサバイバル競争を演じている。誰も助けてはくれない。われわれの未来はわれわれ自身で決めなければならない。LPGの末端価格が2割下がっても、卸価格が2割下がっても、5%の経常利益を上げる企業体を創り上げなければならない。これを実現するために社員のみんなと一緒に中期計画「ストロングサバイバル5S」を作った。みんなで考える全員参加型経営である。今年はその3年目である。
 その経営手法は京セラの稲盛和夫さんの「アメーバ経営」に拠っている。
 アメーバ経営とは
 会社の中をいくつかの小さなアメーバに分け、その一つひとつのアメーバが生き生きと活動できるように自主独立で運営される仕組みである。各アメーバには町工場の社長のように、ヒト、モノ、カネ、工程の組み方などに関して采配がふるえる責任者がいる。この責任者の下で各アメーバのメンバーは、自分たちがいくらの利益を稼いでいるかを見ながら日々の仕事に取り組む。
 アメーバ経営では経営者だけが経営して、従業員は指示されたことだけしかやらないのではなく、全員が経営に参加し、現場の知恵を集めてよりよい仕事を行い、その結果として会社をよくしていこうという考え方である。
 また、アメーバ経営では社員の心の結束を大切にする。「人の心は移ろいやすく、頼りないもの」と言うが、ひとたび結束すれば、これほど強固で頼りになるものはない。事業を営むにあたり、全員がひとつの目標に向かって根気強く力を合わせて取り組む姿勢がたいへん重要である。そのために喜びも悲しみも全員で分かち合う信頼関係を会社内に構築することが大切である。
 アメーバ経営はこれを実現する経営手法なのである。アメーバ経営を図式化すれば、アメーバ経営=企業内小集団による部門別採算制度→全員参加の経営の実現→採算で貢献度を測り目標意識をもたせる→よく見える経営の実現→リーダーの育成→トップダウンとボトムアップの調和ということになる。
 中期計画「ストロングサバイバル5S」
 中期計画の3年目である今期の目標は、総売上高109億円、経常利益6億円、直売件数4万2千件、営業利益段階ですべての部署の黒字化である。
 5つのSとは、SLIM(効率化)&SPEED(速さ)、SATISFACTION(顧客満足・従業員満足)&SAFETY(安全)、SYNERGY(相乗効果)である。
 これら5つのSは、先に述べた職場ごとのアメーバ集団でその成果が時間と金額で評価されて分かり易い。充填所に例をとれば作業として充填業務をしていたときとアメーバ単位として計数管理になってからとでは従業員のモラルが変わった。今の若者は命令ではなく、納得して働く。
 物流の共同化−名を棄てて実をとる
 今年8月22日に横浜市の株式会社トーエルとLPG5千トンの共同充填、共同配送の物流提携契約をした。容器に表記する名称も両社で統一して神奈川LPG物流とした。トーエルもマルエイも社名はない。
 また、三重県津市でも今年10月10日に伊藤忠エネクス、伊藤忠エネクスホームライフ中部とLPG3千トンの物流共同化の契約を締結した。ここでも容器に書き込む名称はエネルギーサービス三重として個々の社名はない。宅配便と同じで配送が的確でマナーがよければいいわけだ。名を棄てて実を取ったのである。
 かくて歴史は動くもの
 栄一社長が経営の効率化とそれによる会社の持続的発展を説くのを聞きながら経営の手法や話題は時代と共に変っているのは当然だが、その思考方法や事態の把握の仕方がお父さんとよく似ているのに気付いた。
 筆者は大分以前のことだが、「90年の歩み マルエイグループ」という本をマルエイの社史編纂委員会のお手伝いをして作ったことがある。澤田家の人々の血脈と言おうか伝統が栄一社長に受け継がれていることを痛感した。
 今や栄一社長の年代の人々が業界をリードし、変革を遂げている。まことに頼もしい限りである。
 かくて歴史は動くもの。

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