(2004/2/23 プロパン・ブタンニュース)

波多野素子
(はたの・もとこ=シナネン経営企画部広報室 社内報『えんゆう』編集長)

今年も春が到来


 三月三日の『ひな祭り』は、私に春の訪れを感じさせてくれる。小学生の頃、幼なじみと雛人形を見せ合ったり、祖父母が家に来てくれたり、みんなでにこやかに過ごした。
 我が家にとっての『ひな祭り』は娘の私のお祝い行事で、庭の梅の花がほころびはじめる二月中旬に、一日がかりで母が七段飾りの雛人形を飾ってくれた。その様子を傍らで見ている私に「毎年ちゃんと飾って、早くしまわないと、お嫁に行きそびれるのよ」と、決まって話す母の言葉に、愛情を感じた。
 鎮座する人形たちの顔立ちの美しさに何時間も見入ったこともある。それに何といっても、『ひし餅』と『ひなあられ』は、子供心をくすぐった。当日まで『ひし餅』と『ひなあられ』を食べてはいけなかったので、まるで恋する乙女のように、食べられる日を待ち焦がれた。そうこうしている内に、だんだんと春の気配が濃くなっていった。
 私に幸福をもたらしてくれる『ひな人形』だったが、自分で飾るようになった高校生からは、飾る大変さからやっかいもの扱いとなってしまい、私はやがて飾らなくなった。
 昨年、十数年ぶりに実家で雛人形が飾られた。
 姪っ子の成長と幸福を願ってのものだが、小さい頃に味わった、家族揃って祝う喜びを再び体験した。私の心には、私をはぐぐんでくれた春の風景が蘇っていた。実家の前にある二百坪ほどの公園。その横に広がる千坪ほどの草原。あたりに散在する雑木林。春にはたんぽぽやぺんぺん草をつんで良く遊んだ。
 ひな壇に梅の花が飾られていた。子供の目にも、梅の花の色鮮やかさはまぶしかった。雛人形は、数週間、家族と一緒に春の日差しをたっぷり受けると、丁寧に紙に包んでしまわれた。寂しかったが、そんな気分もすぐにふっとんだ。外の公園で思いっきり遊びだした。あれこれと思い出すと、久しぶりに私の心は春の息吹を感じて躍っていた。