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(2005/4/25プロパン・ブタンニュース)

コーアガス日本社長 
上小鶴 正康氏
ボッケモン「カンコヅルさん」

株式会社コーアガス日本の社長・上小鶴正康さんは、薩摩川内市の人である。生家は同市の上小鶴病院、父も兄も医師であるが、氏は少年の時分からめっぽうメカに強く、物理・化学は得意な学科だった。昭和の初め父上はハーレーダビッドソン(オートバイの王様)で往診した。少年はハーレーの虜になったが、ハンドルは掴めても、めいっぱい足を伸ばしてもステップに足が届かない。高下駄を履いて運転した。
 こうした資質はその後も遺憾なく発揮され今日のコーアガス日本に脈々と生きている。LPガスシリンダー充填プロセス、MK式13Aガス製造プロセス、次世代ボブテールの技術開発等々。
 特に13Aガス製造プロセスは日本ガス協会の「技術賞」を受賞した。氏が所有する特許はLPガス関係に限っても、国内外合わせて32に及ぶ。
 今年、創業50年を迎えた。傘下に南日本ガス株式会社(都市ガス)、株式会社コーアオートガス、タキ運輸株式会社、株式会社コーアガス関東の4社は主なるグループ会社である。そして鹿児島県下に需要家件数5万余を擁し、LPガス取扱量は年間3万d超である。
ブローバイパス充填装置と新型バルクローリー
 上小鶴さんの人となりは何事にも真摯で稚気満々まことに掬すべきものが多い。それを書くには本稿の紙幅は小さい。幸いなことに上小鶴さんの3人の娘さんが協力して書いた「父を想えば止められない」という1冊を読むに如くはない。この本にはLPガスをこよなく愛するボッケモン・カンコヅルさんが躍如としている。ボッケモンとは「ボッケモン・西郷どん」のように行動が優先する人を言う鹿児島弁である。
 充填工場の見学を終えた筆者に上小鶴社長は、わが充填工場は無臭だっただろうと言った。わが社が開発したブローバイパス充填装置は充填アダプター内の残ガスの噴出を全く無くし、アダプター内のガスをリサイクル利用するシステムだからだ。三方ロータリーバルブを装着して回収ラインに切り替えることで自動的に充填アダプター内の残ガスが回収できる。また、過充填された場合にはバキュームして大気放出せず規定量まで安全に回収できる。
 前記のブローバイパス充填方式を搭載したタンクローリーを稼働させている。その新型バルクローリーには液送ポンプとガスコンプレッサー併用運転で充填速度の高速化を図っている。メカに強い上小鶴社長の真骨頂を見る思いだった。
MK式13Aガス製造プロセスの開発
 上小鶴社長は平成4年にMK式13Aガス製造プロセスの技術開発とその工業化が高く評価され日本ガス協会の「技術賞」を受賞した。その技術は国内外に供与されている。また、同技術開発は平成16年、科学技術振興功績者として文部科学大臣賞の栄誉をうけた。
 文部科学大臣賞の功績書に曰く「昭和60年代から事業者によってばらつきがある都市ガスの燃焼性の13A化が求められた。大手都市ガス事業者はLNGによる高熱量化に対応できたが、中小ガス事業者にはLNGによる高熱量化は多額の資金を要し困難だった。上小鶴社長は全国的に供給インフラが確立しているLPガスを主原料にLNG13Aと同等の燃焼性で、LNG13Aガス用機器と適合性があるプロパンエア13Aガス及び製造プラントを開発した」とある。
 昭和24年、星ヶ峯ニュータウンで簡易ガスプラントによる供給を開始。これがプロパンエア13Aガスプラントの基礎となった。昭和59年、南日本ガスの川内工場で熱量6Cからプロパンエア13Aに熱量変更した。九州に都市ガス事業者が28社あったが、3社がブタンエアで4,500〜7,000キロカロリーにした。
 全事業者からどうやって13Aにしたのかと聞かれたものだ、と当時を述懐した。
星ヶ峯ニュータウンと南日本ガス国分工場管見
 常務の宮原道夫さんの案内で両工場見学をした。
 星ヶ峯ニュータウンは許可地点5,426地点、九州で2番目、全国で7番目に大きい簡易ガス団地である。南日本ガスの国分工場は設備戸数3,897戸の都市ガス事業である。
 両工場の設備等を詳しく書くには紙面が足りない。工場見学管見とでも言おうか、筆者の印象を述べるに止める。両工場とも整然と配置されたプラント、屋内のプラント計装盤、動力制御盤はメーカーが持ち込んできた長方形のケースのままではない。壁側に展開されている。シンプル・イズ・ベストである。両工場とも環境への配慮、地域への融和が図られている。星ヶ峯工場の緑地帯は梅林、国分工場はさくら並木だった。
 上小鶴社長は造園業者に任せず自ら寒風に曝されながら造園に打ち込んだそうだ。国分工場は北に霧島連山、南は桜島の景観に溶け込んでいた。
手造りの緊急工作車
 工場で手づくりの緊急工作車の出動を見学した。発電機やいろいろな工作用具がワゴン車からスライドして取り出された。車の両扉を開けばつるはし、スコップ等が整然と壁に留められている。随所に工夫がこらされている。このワゴン車が移動すればそこに工場が出現するというわけである。これも社長の発案だと聞いた。
 上小鶴さんの名刺には一級小型船舶操縦士の肩書があった。星ヶ峯ニュータウンのガス基地に上小鶴さんの「クイーンコーア」号があった。
 筆者はその艇に挙手の礼をして帰って来た。


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