石油化学新聞

THE PETROCHEMICAL PRESS

石化産業 業界再編とGX同期的に

誘導品高付加価値化に活路 自動車回復が下期の期待

石油化学産業が不況に見舞われて久しい。基礎石化原料を生産するナフサクラッカーの稼働率は22年8月以来、今年6月まで23カ月連続で90%を割り込み、直近の6月は7・6%にまで低下。上期は精彩を欠いたまま24年を折り返した。アジアの供給過剰に対して能力適正化に向けたコンセンサスは高まるが今日明日に実現するものではない。一方で、化学のグリーントランスフォーメーション(GX)は実効性を帯びて加速。業界再編とGXがシンクロしつつ進展しそうだ。

  • クレハ・・・新医療機器事業化へ PoC成功30年メドに製品化
  • レゾナック・・・「クラサスケミカル」石化分社25年1月始動
  • 積水化学工業・・・車ガラス用中間膜 タイで80億円投じ増設
これからの自動車と化学産業 電動化 自動運転

世界的変革を商機に 台頭する中国企業 解決策を幅広く

自動車産業は日本経済を牽引する主要産業であり、素材事業を展開する化学産業にとって最大の市場。自動車業界は現在、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)をキーワードとした世界規模の変革期に突入している。素材・部材などを供給する化学企業にとって、CASEへの対応が関連事業の浮沈を左右すると同時に、大きなビジネスチャンスにもなってくる。

3月に都内でEVの国際レースが開かれた(写真は参戦したジャガーTCSレーシングチームの車両)

日本の化学業界にとって自動車産業は、電気・電子産業とともに成長を支えてきた主要市場。このうち電気・電子分野は最終製品の動向に収益が左右されやすく、加えて近年は最終製品の生産拠点も中国などへシフトする方向。一方の自動車分野は需要が比較的安定しており、市場規模が大きく、さらなる成長も期待できる。信頼性などを背景に海外品との差別化へも対応でき、一定の付加価値も見込める。また、日系の顧客が世界で高い競争力を維持している。

GXの技術開発を加速する化学企業

旭化成/ 水島製造所
炭素・水素 循環利用で有望技術
独創的触媒プロセス 事業化視野に開発着々
旭化成水島製造所は同社の石油化学系事業の主力生産拠点であり、独創的な触媒・プロセス技術により数々の新製品・新事業を創出してきた。カーボンニュートラル(CN)社会の実現に資するサステナブルな技術の確立が新たな競争力の源泉となる今日、水島で蓄積してきた独創技術の進化版が炭素・水素の循環利用に最適なイノベーションとなり、その早期確立が期待されている。構造改革と新技術の社会実装が同期しつつ、異業種連携による水島コンビナート全体のCN実現の推進力ともなりつつある。
4テーマで開発進展 石化グリーン化実現へ全力
技術と人材 強みは改革と進化 コンビナート 地域CNも急加速

住友化学/ 千葉工場
石化新モデル確立へ イノベーションを続々実証
住友化学千葉工場は同社がグローバルに展開するエッセンシャルケミカルズ事業のマザープラントである。と同時に、石油化学事業のグリーントランスフォーメーション(GX)を推し進めるイノベーション創出に拍車をかける。6月末には新研究棟イノベーションセンター「MEGURU」が竣工し、環境負荷低減技術の知を集結させた。NEDOのGI基金に基づく4件の研究開発では、実証のスケールアップが着々と進展している。GHG(温室効果ガス)排出量削減などサステナブルな取り組みも加速させており、石化の構造改革と合わせて日本の石化の新たなモデルを確立しつつある。
環境負荷減の〝知〟結集 新研究棟 「MEGURU」竣工
GHG削減策が進展
GI基金 CR4テーマ先行的に 実証段階迎え社会実装期待
高効率ガスタービン 用役で燃料転換

グリーン、デジタルで活性化する化学の故郷

九州エリアのプラントと製品
九州エリアは森と山々と豊かな水に育まれ、その水の力を起源として明治期にさまざまな近代産業が勃興した。化学産業もその一つ。サステナブルなものづくりへの原点回帰が求められる今日、GXとDXの新たな技術をまとい、高機能・高付加価値な化学製品が次々と創り出されている。半導体シリコンアイランドとして九州エリアに再び注目が集まるなか、材料メーカーや装置メーカーの熊本進出が相次ぐが、今後もその波が南下していく可能性は高い。人々の健康に貢献するライフサイエンス関連の材料・製品に対する期待も一段と高まっている。南九州を代表する化学プラントを擁する水俣と延岡を訪れた。

JNC 水俣製造所

グリーンエネルギー ものづくりに矜持 ライフ・シリコーンで捲土重来

水俣製造所は水力発電で100%稼働している

■ポストFIT視野に攻めの水力発電
JNCの水俣製造所は水力発電で100%稼働する国内でも稀有な化学プラントだ。液晶の生産撤退という抜本的な構造改革を完了させ、現在の最注力事業であるライフケミカル材料とシリコーン材料の製造拠点として捲土重来を期す。1906年の創業以来、グリーンエネルギーでものづくりに励んできた矜持を胸に、持続可能な進化を目指す。
チッソの事業会社であるJNCの歴史はグリーンエネルギーとともにある。明治の起業家・野口遵が鹿児島県大口市(現伊佐市)に曽木発電所を開設し、その電力を用いて水俣の地でカーバイドを製造。肥料や農薬など化学品製造業を立ち上げた。これが日本の化学産業の発祥とされている。

水俣製造所 縞田輝氏に聞く
前回、水俣製造所を訪れたのは11年のこと。当時は液晶増産に沸き、新たな建屋で埋め尽くされる勢いだった。その液晶の構造改革を20~23年のわずか3年で完遂し、新たな成長戦略を推進する。今年4月から水俣製造所長を務める縞田輝氏は、ここ水俣で生まれ育ち、液晶事業にも深く携わってきた。縞田製造所長に水俣の未来図を聞いた。
―水力発電の大規模更新がすべて完了しました。
20年の豪雨、22年の台風と、このところ異常気象続きで、更新後に痛んだ発電所が3カ所あり、これらの修復が急務となっている。また、DXによる予防保全を行うシステムを導入したので、データ収集などを通じて早期に対策が打てる体制を整える。

旭化成

「ハイポア」「セオラス」

・ハイボア
LIBセパレーター DX活用で効率化
生産拡大とコスト改善急務

日向工場

旭化成のリチウムイオン電池(LIB)用湿式セパレーター「ハイポア」は車載用途で需要拡大が見込まれ、日向工場(宮崎県日向市)では塗工膜などの生産体制拡大とともにコスト改善が急務となっている。効率化に向けDX活用も進む。ハイポアはポリオレフィンをベースとする多孔質膜。LIBの正極・負極間に位置し、リチウムイオンを透過させる、正極と負極の接触を遮断して短絡を防止する。近年は民生用電子機器用途から車載用途に販売を拡大してきた。北米で急速に電気自動車が立ち上がりを見せており、ハイポアのさらなる需要拡大が見込まれる。

・セオラス
国内2工場 デジタル連携で一体化
スマートファクトリーへ

東海工場

旭化成は結晶セルロース「セオラス」を製造する東海工場(宮崎県延岡市)と水島工場(岡山県倉敷市)のデジタル連携に取り組んでいる。既に製造に関するデータの共通基盤を整備しており、今後はデータ活用を目指す段階だ。最終目標は国内工場のスマートワンファクトリー化で、東海と水島工場の一体運営により最適な生産体制を構築する。

旭有機材

DXアプリ/大口径バタフライバルブ

・DXアプリ
全体最適で生産性向上
各部署横断の効率化推進

内製アプリで生産性を高めている

旭有機材は延岡製造所で、工場再構築プロジェクトとして生産性の向上・改善を進めている。アプリを活用したDXによって生産能力を高め、半導体製造に欠かせない樹脂バルブの需要拡大に備える。延岡製造所では近年、各部署の担当者が集まって、リードタイム改善会として生産効率化に取り組んでいる。製品ごとに定められた納期を守ることを第一目標に、各部署の生産状況を確認、工程全体のボトルネックを解消して生産工程の改善を図る。製造工場としてこれまでもPDCAサイクルを意識しながらの改善行動に取り組んできたが、「部署ごとに改善する部分最適ではなく、各部署を横断した横のつながりの中で『一気通貫』に生産し、部分最適ではなく全体最適を目指して改善に取り組んでいる」(甲正健二管材システム事業部グローバル製造・開発推進部長)。

・大口径バタフライバルブ
SDGs目標 達成へ先駆的立ち位置
水資源確保 重要な一翼を担う

延岡製造所の大型成型機

バタフライバルブの製造で先駆的な役割を果たしている。直径1200㍉㍍までの大口径バタフライバルブを製造する企業は世界中に多く存在するが、樹脂製品の特徴を生かし、金属製品では実現できない製品を提供するのは世界でも旭有機材のみ。樹脂製バルブは、化学工場の薬液が流れる配管など腐食の起きやすい個所で使われるが、大口径バタフライバルブは大規模な淡水化施設でも強みを発揮している。水源が限られる地域での水資源確保の持続可能性に貢献する。SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」の達成に向け重要な一翼を担っている。

サステナブルに機能進化する化学製品<活用事例>

  • ダイセル/酢酸セルロース
    ・透明で高い質感を実現
    ・天然由来、生分解性 循環型社会に貢献
  • 積水化学工業/フィルム型PSC
    ・グループの技術を結集
    ・トータルコスト重視 25年量産へ向け実証

THE PETROCHEMICAL PRESS

新時代の化学工場と計測・制御・情報 

YOKOGAWAグループ

  • 安全、高機能 高まるDXニーズ
  • 自律化の先へ 総合的に価値提供
  • 横河ソリューションサービス執行役員インダストリー統括本部長松川賢氏に聞く
    需給環境と市場ニーズが刻々と変化する今日、化学品製造における制約条件はより高度化、複雑化している。とりわけグリーンケミストリーへ転換を図る化学業界にとって、製造現場が安全・安定を維持しつつ、原料や燃料の多様性を受け入れ、付加価値の高い製品を供給する拠点に進化することが求められている。プラント操業における神経系である計測・制御技術は最先端のDXソリューションをその身にまとい、化学産業の経営と生産を支援する。その最前線に立つ横河ソリューションサービスの松川賢執行役員に話を聞いた。
  • 事例解説

本紙で振り返る化学産業( 2019 ~ 23 年)

世界経済は19年ごろまでは好況を謳歌したが、20年の新型コロナパンデミックで様相が一変。一時期は踏みとどまるも、流通網の混乱や半導体・部品不足、地政学的リスク、中国の成長鈍化と供給過剰など22年以降は複合的要因で不況時代となった。一方、化学産業は持続可能な社会に技術で挑戦する動きをし、GX・DXの変革で生き残りをかける。(p.8-12)

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主要化学製品の市場動向/課題と展望
・クロルアルカリ/再エネと設備更新課題 未来はグリーンカセイソーダ
・ポリスチレン/事業基盤強化が不可欠 内需 食品包材向けが低迷
・エンジニアリングプラスチックス/変革進む車両用に力 技術力で新たな価値創造
・プラスチック発泡体/オレフィン系 車向け中心に幅広く エンプラ系 高機能性が高い評価
・PAN系炭素繊維/世界需要 年率2ケタ成長で推移 風車翼や航空機向けが牽引
・プラスチックフィルム/各社 高機能品展開に活路 食品包装用 収益強化へ統合新社

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